結晶系・結晶方位による消光角の違いについて [戻る

等軸晶系以外の鉱物は,自形〜半自形の場合,結晶軸方向(a軸,b軸,c軸のいずれか)に伸長する傾向がある。
1軸性結晶(六方晶系・正方晶系)では,上方ニコルあるいは下方ニコルの光の振動方向と,c軸(あるいはa軸方向)が平行になったときに消光する。
※2軸性結晶(斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系)では,上方ニコルあるいは下方ニコルの光の振動方向と,光学的弾性軸(Z・X・Yのいずれか)が平行になったときに消光する。

六方晶系・正方晶系・斜方晶系の場合)

六方晶系・正方晶系ではc軸が光軸と一致し,その方向に伸長し(「めのう」を構成する石英のようにa軸方向に伸びる場合もある),その伸長方向に対し,直消光する(形態的にc軸方向に伸びたものは柱状,a軸方向に伸びたものは板柱状)。

斜方晶系では,a軸またはb軸またはc軸の伸長方向に対し,直消光する(結晶軸の全てが,光学的弾性軸:Z・X・Yに一致。すなわち,a軸=XまたはYまたはZ,b軸=XまたはYまたはZ,c軸=XまたはYまたはZ)。


六方晶系(石英,リン灰石)・正方晶系(ジルコン)・斜方晶系(頑火輝石・ぶどう石)の消光の例。これらはいずれも直消光する。


六方晶系:石英(めのう中の針状集合体の石英)の直消光

石英は一般的な岩石では伸長していないが,熱水成の石英(めのうなど)ではしばしば伸長し,上画像のように針状〜繊維状集合体をなす。
上画像では,黄色矢印先の石英はc軸方向が縦横のクロスヘアーに一致して,直消光している。このようなめのうを構成する石英はa軸方向に伸長している場合も多いが,その場合もこれと同じように直消光する(※c軸方向に伸長している場合は伸長が正,a軸方向に伸長している場合は伸長が負で,その区別は鋭敏色検板を用いる)。



六方晶系:リン灰石の直消光



正方晶系:ジルコンの直消光



斜方晶系:頑火輝石の直消光


斜方晶系:ぶどう石の直消光


※なお,以上のような対称度の高い結晶でも,結晶の伸び以外の方向,すなわち,へき開や双晶境界の方向は結晶軸(光学的弾性軸)の方向と平行でない場合もあるので,それらの方向に対し,必ずしも直消光するとは限らない。例えば,熱水鉱脈にまれにみられる石英の日本式双晶の双晶境界はその石英の消光位に対して約42°の角度をなす。
また,頑火輝石はc軸にほぼ直角方向から見るとへき開線は1方向に見え,それに対して上述のように直消光するが,それ以外の方向から見るとへき開線は2方向見え,その2方向のへき開線に対しては斜消光する(その斜消光の消光角は測定しても無意味である)。




c軸に対し直角方向以外の方向から見た頑火輝石(斜方晶系)のへき開線に対する消光(斜消光)
斜方晶系である頑火輝石はおおむねc軸が薄片面に平行になっている粒子(c軸に伸びた形態に見える粒子でへき開線は1方向に見える)ではへき開線に対して直消光するが,それ以外のへき開線が2方向に見える方位の粒子では上画像のようにへき開線(黄色矢印先の割れ目)に対して直消光せず斜消光する。ただし,その斜消光の消光角は無意味である。

※輝石類や角閃石類などのイノケイ酸塩鉱物のc軸に平行なへき開線に対する消光角は,右図のようにおおむねc軸が薄片面に平行になっている粒子を選んで観察する必要があり,それ以外の方向の切断面の粒子のへき開線に対する消光角は無意味である。


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単斜晶系の場合)
単斜晶系の結晶は,結晶軸b軸と,光学的弾性軸(X・Y・Z)のうちのいずれかが一致する(したがってb軸に対しては直消光する)。それ以外の結晶軸(a軸・c軸)・へき開線の方向・双晶境界の方向と,光学的弾性軸(X・Y・Z)の方向は通常は一致しないので斜消光し,その消光角が鉱物同定の際に調べられる。なお,結晶軸(a軸・c軸)と光学的弾性軸(X・Y・Z)とのなす角度(厳密な最大の消光角,c軸∧X,c軸∧Zなど)は,ユニバーサルステージを用いないとわからないことが多く,通常,消光角としているものはc軸∧X´,c軸∧Z´などである。


例1)普通輝石の光学的方位による消光角
普通輝石はb軸がYと一致し,その方向から見た場合,c軸の伸び方向やへき開線に対する消光角が最大で,約40°である(c軸∧Z=40°)。一方,a軸方向から見ると,c軸はZと同じ方位(Z´)なので直消光する。
なお,普通輝石・透輝石〜灰鉄輝石・ひすい輝石などの単斜輝石(エジリンを除く)は,a軸からb軸に少し回り込んだ方位では急に消光角が大きくなる(a軸からb軸方向に20°程度,回り込んだ方位から見るとすでにb軸方向から見た場合と同じような最大に近い消光角を示す)。したがって薄片中のへき開線が1方向に見える普通輝石(c軸に対し高角度〜垂直方向から見る粒子)の7〜8割は最大の消光角に近い35〜40°程度の消光角を示し,それが角閃石類(消光角20〜25°程度)との重要な区別点になる。
なお,b軸(=Y)方向から見た粒子は最も干渉色が高いので(γ−α=0.020程度で干渉色は2次に達する),観察対象の粒子が完全に最大の消光角(c軸∧Z)を示すものか否かの判定は,干渉色からある程度判断できる(普通輝石と同じく,b軸=Yの光学的方位を持つ普通角閃石などについても同様)。※なお,このY方向の粒子は多色性も最も明瞭で,多色性が無〜弱いとされる普通輝石もY方向からは弱いながら平行ニコルではっきり多色性が見られる。






例2)普通角閃石の光学的方位による消光角
普通輝石と同じく普通角閃石もb軸(=Y)方向から見た場合,c軸の伸び方向やへき開線に対する消光角が最大で約20〜25°である(c軸∧Z=20〜25°)。そして,普通輝石同様,a軸方向から見ると,c軸はZと同じ方位(Z´)なので直消光する。普通角閃石の場合はa軸からb軸に40〜50°回り込んだ方位でようやく最大に近い消光角(約20°)を示すようになる。したがって薄片中のへき開線が1方向に見える普通角閃石(c軸に対し高角度〜垂直方向から見る粒子)のうち,半分近くは消光角が約10°程度あるいはそれ以下の直消光に近いものであり,それが普通輝石との重要な区別点になる。
なお,b軸(=Y)方向から見た粒子は最も干渉色が高いので(γ−α=0.020程度で干渉色は2次に達する),観察対象の粒子が最大の消光角を示すものか否かの判定は,干渉色からある程度判断できる(多色性もこのb軸(=Y)方向から見た粒子が最も強い)。


しかし,単斜晶系の鉱物でも結晶軸(a軸・c軸)と光学的弾性軸(X・Y・Z)の方位とが一致〜ほぼ一致する場合,ほぼ直消光する。特にフィロケイ酸塩鉱物は単斜晶系であってもb軸だけでなく,a軸も光学的弾性軸と一致〜ほぼ一致する場合が多いので,結晶の伸びやへき開に対し直消光するものが多い(下図)。

※フィロケイ酸塩鉱物は単斜晶系であってもb軸だけでなく,a軸も光学的弾性軸と一致〜ほぼ一致する場合が多いので,結晶の伸びやへき開に対し直消光するものが多い(雲母類・緑泥石類・パイロフィライト・スチルプノメレンなどは,単斜晶系でありながら,結晶の伸び方向やへき開線に対し,ほぼ直消光する)。



黒雲母(単斜晶系)の結晶の伸び方向に対する直消光




黒雲母の光学方位




緑泥石(単斜晶系)の結晶の伸び方向に対する直消光




緑泥石の光学方位


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三斜晶系の場合)
三斜晶系の結晶は,消光位である光学的弾性軸(X・Y・Z)と結晶軸(a軸,b軸,c軸)はいずれも一致しない場合が多く,結晶の伸び方向・へき開線の方向・双晶境界のいずれに関しても斜消光する場合が多く,それらの消光角はさまざまである。その消光角は厳密には結晶軸(a軸・b軸・c軸)とX・Y・Zとのなす角度で,c∧X,c∧Zなどと表記されるが,通常はユニバーサルステージがないので,それらはc∧X´,c∧Z´などである。

なお,三斜晶系の鉱物でも,ケイ灰石(b軸方向に伸び,b軸≒Y)やペクトライト(b軸方向に伸び,b軸≒Z)のように,伸び方向の結晶軸と光学的弾性軸がほぼ一致するため,結晶の伸びに対して直消光に近いものもいくらかある。そのことが同定の決め手になる場合も少なくない。

また,下図のように,三斜晶系の斜長石のアルバイト双晶の双晶境界に関する消光角は組成(曹長石成分と灰長石成分の比率)の推定に重要である。特にa軸方向から見た粒子では(0 0 1)と(0 1 0)の2方向のへき開線が,平行ニコルで見るとシャープで細く,おおむね直交し(ステージ下の絞りを絞るとわかりやすい),クロスニコルではその粒子はステージを左方向に回転させても右方向に回転させても粒子内の1つおきの双晶ドメインが左右対称にほぼ同じ角度で消光する(その角度を対称消光角という)。その対称消光角で,おおまかな斜長石の組成(曹長石成分と灰長石成分の比率)がわかる。
※双晶境界に関する消光角は,そのほかの鉱物についてはそれほど問題にならないが,へき開線と双晶境界の角度・双晶境界でのへき開線の屈曲の有無などとともに,双晶の形式の決定,ひいては鉱物種の決定に役立つ場合がある。